




【表現の景 ── 荒ぶる野生と、静謐なる規律】
先日、美術家・ヤマダカズキさんの個展「SUSANOO ── スサノオー」に足を運びました。
国を代表する美の学び舎で壁画や古代モザイクの技法を修め、現在は同校にて後進を導くヤマダさん。作品が放つ圧倒的なエネルギーとは対照的に、とても柔らかく、優しいお人柄が印象的な表現者です。
今回の展覧会の核である「素戔嗚命(スサノオノミコト)」、そして神話の聖地「出雲」の気配がどのように物質へと定着されているのか。その深い共鳴の空間を共有させていただきます。
☆荒ぶる神「スサノオ」が象徴するもの
素戔嗚命とは、日本の神話において最もダイナミックで、人間味に溢れた神様です。
天界を揺るがすほどの「荒ぶる野生」を持ち、時に破壊的な力を見せる一方で、出雲の地に降り立ってからは、人々を苦しめる八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治する壮大な「英雄」へと姿を変えます。そして地上の王となり、豊かな国のはじまりを拓いていきました。
破壊と再生、荒々しさと深い慈愛。
自然の圧倒的な驚異であり、同時に命を育む偉大な土壌そのものであるスサノオは、まさに「生のうねり」そのものの象徴なのです。
☆石の粒に宿る、出雲のうねり
ヤマダさんが扱う古代モザイクの技法は、途方もない歳月をかけて大地が育んだ石の粒を、一つずつ対話するように並べていく緻密な世界です。
そこには、極限まで計算された「規律」があります。
しかし、彼の作品の前に立ったとき、私たちが感じるのは息苦しい制限ではありません。石という静かな物質の隙間から、まるでスサノオが放つ猛烈な生命力や、出雲の山々を渡る風のうねりが、そのまま脈打って溢れ出てくるかのような感覚を覚えるのです。
完璧に整えられた構造の中に、決して飼い慣らされることのない野生を息づかせる。
それは、自然の営みと人間の文化が最も美しいバランスで結びついた、ひとつの理想的な構造美の姿でした。
☆瑞々しい眼差しと、これからの巡り
対話のなかで、ヤマダさんが「実はまだ、出雲の地には足を運んだことがないんです。今度、ゆっくりと視察してみようと思っています」と、穏やかに微笑みながら語ってくださったのが非常に印象的でした。
神話の壮大な熱量をこれほどまでに作品へ宿しながらも、これからその本源の土地の空気に触れ、さらに表現を深めていこうとされる瑞々しい姿勢。その謙虚で真っ直ぐな眼差しに、作家としての深い誠実さを感じずにはいられませんでした。
伝統の精神を携えた彼が、これから実際に出雲の風や土と出会ったとき、その手からどんな新しい景(けしき)が生まれるのか。今から楽しみでなりません。
最高峰の表現、そして温かなお人柄との純粋な共鳴。この美しい出会いがあるからこそ、私たちのクリエイションもまた、ブレることのない軸を磨き続けることができるのだと確信しています。
ヤマダカズキさんの美しい手仕事、そして大地と神話に繋がる静謐な世界に、心からの敬意を込めて。
🎨 作家紹介:ヤマダカズキ(山田一輝)
1995年熊本県出身。東京藝術大学大学院美術研究科(壁画研究分野)修了。2023-2024年、ポーラ美術振興財団在外研修員としてAccademia di Belle Arti Ravenna(イタリア)にて研修。現在は東京藝術大学テクニカルインストラクター(壁画)を務める。
【近年の主な個展】
・2026「SUSANOOースサノオー」(Gallery MARUHI、東京)
・2025-2026 HIRAKU Project Vol.17「地に木す」(ポーラ美術館アトリウムギャラリー、神奈川)
・2025「石のカタリベ」(Gallery MARUHI、東京)
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