江ノ島江島神社SHIZENNECTION

自身の作品でもって日々創造し続けるアーティストは、日本の文化をどう捉えているのか。
お一人ずつ言葉にしていただいた内容をシェアしていきます。

シリーズ【2】は、
「 水と波動 」@日本三大弁財天 江島神社
2019年11月14日大嘗祭並びに八臂弁財天御尊像 国指定重要文化財指定記念に際し作品奉納された
佐野圭亮 先生
https://www.facebook.com/profile.php?id=100005822461544 のお言葉です。

キーワードは、◾️素材◾️

自身の求める形ではなく素材の求める形を削り出す。西欧のような構築的なものではなく、あらかじめあるものの中から探り当てていくようなものに近い気がする。
その造形はどこまでも合理的でなおかつ必然的である。私はこのようなしなやかさにこそ日本らしさの真髄があるのではないかと思っています。

日本の伝統文化の特徴は「素材」というものに色濃く見えてくると思います。日本は素材の豊かな国です。漆や木、土などの物質的な天然素材に加え、人々を飽きさせぬ四季折々の変化。そういった一級の「素材」を熟練された「技」により調理して一つの絶品料理を作ろう、というのがまさに日本の伝統文化というものだと思うのです。
日本の伝統文化の美的感覚にはいかに「素材」を引き立てるかという工夫が随所に見られます。例えば和装。打掛をはじめとする和装の縫製は極めて直線的かつ平面的です。そして何よりそれらの形、様式は厳密なルールに基づいて定められているのです。ある意味「形」という点において他との差異はでません。だからこそ、素材や柄それぞれの取り合わせによる響き合いがより一層際立つのです。これは立体的なフォルムを優先する西欧の美観には見られない、日本の風土が人々から引き出した感性であり、このように素材が主役を担っていると言えるのです。
しかし、一方で現代における「伝統」の捉えられ方には少なからず違和感を感じざるを得ない部分もあります。それは産業革命以降、大量生産大量消費の時代とともに手工業が衰退し、いつの間にか伝統が「守られる」立場になってしまってからです。そこに「伝統」とは昔から形を変えることなく継承されてきた大切なものである、という誤った認識があるのです。
私が専門的に扱っている素材は漆ですが、漆がはじめて日本で塗料として塗られたのはおよそ9000年前であると出土品への化学的調査で明らかにされています。9000年前と今とでは何もかもが違うのはどなたでも納得していただけるでしょう。それを9000年の歴史があると言うのは間違っていませんが、9000年の伝統があると言うのはかなりの疑問です。伝統とはどの時代においてもその時代その時代に寄り添った形で少なからず変化を遂げてきたはずです。ただ、近代化と言う変化があまりにも劇的だったためにそれまでの文脈が変化の許容を超えてしまい、一切合切変化することをやめてしまった、と言うのが守られる立場に回ってしまった伝統のやるせない悲劇的側面です。 
守られるだけの伝統に血は通いません。人々に必要とされていたからこそ、その文脈は9000年前までにも遡るのです。伝統は守るものではなく新しく紡いでゆくもの。その権利は私たちが今を生きているからこそ行使できるのです。私たち一人一人が伝統の最前線に立っていることを自覚し、その創造者であるという当事者意識を忘れてはいけません。さあ、伝統をアップデートしよう。

(自身作品制作に日本らしさを意識するか)
私が制作に取り組む上で重要と考えていることはやはり「素材」と「技」です。ただただ良い素材だけを寄せ集めただけではおいしい料理は作れません。その素材の性能を遺憾なく発揮させなければなりません。
木材を加工してお椀を作る時、ただただ分厚く作れば当然頑丈なお椀になります。しかし、それは木という素材の性能の限界に迫ったものではありません。丈夫といえどその強度のほとんどは日の目を見ることはないでしょう。薄すぎず厚過ぎず、熟練の技が理想的な厚みに木椀を挽いた時、それは素材である「木」そのものが望んだ形といっても良いでしょう。そのようにして削り出された最適解は自ずから美を醸し出すことになるのです。
自身の求める形ではなく素材の求める形を削り出す。だからこそ、技の習得はより一層の困難を極めるのです。ゆっくりと自分の感覚と素材の感覚をシンクロさせてゆく。繰り返しの行為がやがて大きな積み重ねとなり、確かな手応えとなる。
工芸という日本的感性が凝縮されたものづくりにおいて、その美とは西欧のような構築的なものではなく、あらかじめあるものの中から探り当てていくようなものに近い気がする。その造形はどこまでも合理的でなおかつ必然的である。私はこのようなしなやかさにこそ日本らしさの真髄があるのではないかと思っています。

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